04

Waiting For You

「紅。脚、開いて」

 俺は紅の耳もとでささやいた。顔を覆い隠す両手を退けさせ、つんと先の尖った鼻に、薄赤く染まった瞼に、かすかに触れるだけのくちづけを落とす。

「…………んん、……」

 紅は、閉じた目をさらにぎゅうと瞑って、膝を少しずつゆるめはじめた。俺は紅の顔の至る所にキスを降らせ続け、てのひらでは、胸から、腰骨の出っ張りの上を通って、膝のあたりまでを、ゆっくりと、何度も往復してさすった。急かさずに、紅が自分で開ききるのを待つ。

「ボス、……見ないで……、」

「バァカ、見たくても見れねぇよ。俺の顔、ここにあんだから」

 鼻と鼻を擦り合わせてやると、紅は、両腕を俺の首の後ろにまわして、抱きついてきた。俺は目玉だけを限界まで動かして、何とか目の端で、紅が大きく開脚しているのを確認してから、言った。

「もう、これ以上無理、ってとこまで開いたか?」

 頭が縦に一度だけ動く。俺の頭を抱いている腕に、息も出来ないほどきつく力がこもった。ボス、と、涙まじりの声が俺を呼ぶ。

「………………きらいに、ならないで……ぇ……」

 嘘みたいに、そのとき、触れている紅の肌は冷えきっていた。皮膚も粟立って震えている。きっとこの1年間、俺とセックスをするたびに、紅はこの言葉を、恐れを、口に出せず飲み込んできたのに違いなかった。

「ならねぇから、ちょっと、力緩めろ。息とまる」

「……ごめ、」

「離れろとは言ってねぇよ」

 腕を解いて、俺の下から抜け出ようとした紅の体を、今度は俺が腕をまわして抱きしめた。しゃくりあげ、ひくひく波打つ紅の腹の動きが、くっつき合った俺の腹に直に伝わる。冷えた紅の肌に、俺の熱が、少しずつ移ってゆく。

「紅、だいじょうぶだから、」

 俺は、昂奮しっぱなしで、みっともなく涎をこぼしている自分の持ち物を、紅の少し萎えたそれへ擦り付けた。

「…………あ、……!」

 見開かれた紅の眼に、その卑猥な光景が映り込む。目のふちから、涙の玉がひとつ脹れて、転がり落ちた。俺は両腕を砂浜に突っ張って、俺の真下で、全てをさらけ出した紅のからだを、隅々まで視線で舐め回した。

「ここから、お前の真っ平らの胸と、立派なアレと、ちょっと開いたケツの穴がいっぺんに見える。あぁ、今閉じた。……こうやって、お前の裸見て、俺ァいま一物おったててんだ。何でか分かるか?」

「……わ……、わかる。俺が、ボスの裸でドキドキするのと、一緒、だよね……?」

「一緒だ。信じるか?」

「信じる」

 真っ赤な顔で、キッと俺を見据えて言い切った表情が、間抜けで、かわいくて、俺は口許が緩むのを我慢できなかった。だが、なぜ笑われたのかを分かっていない紅の眉は、すぐさま不安に曇って、離れていたはずの膝と膝も、あっという間に俺の脇腹を挟み込むほど距離を狭めている。

「なら、脚閉じんな」

 俺は言って、汗の滲んだ額に唇をくっつけ、髪の生え際も、そのまま唇をすべらせて撫で上げた。脇腹を締め付けていた細い膝が、左右に遠のいていく。

「ボス、」

「うん?」潮の匂いのする髪に唇を埋めたまま返事をした。

「開いた、よ」

「うん」

「ボス、」

「うん」

「うんじゃなくて、ボス、……お願い、…………見て、」

 砂の上に肘をつき、脚を大きく広げた格好で、紅は俺を上目遣いに見つめていた。俺は、無理な体勢に震える下腹を見て、さらにその下、手入れされた陰毛から続く、体液と砂に汚れた股に視線を注いだ。

「見てるだけでいいのか?」

「だめ。いっぱい、見て。それで、俺のおしり、ボスの熱いのでいっぱいにして」

「俺のだけ? 砂は?」

「砂も、……いれて。俺の中で、ぎゅうぎゅうになって、いっぱいきもちよくなって……」

 パンパンに脹れ上がっている俺の一物に、そのせりふで更なる追い打ちをかけて、紅は微笑した。俺をじぃっと見つめたまま、揃えたひとさし指と中指を銜え、舌を這わせて、どろどろに濡らす。

「っとに……、お前な、振れ幅大き過ぎんだよ。あんまエロい誘い方すると、俺なんか挿す前にいっちまうからな」

 俺が脅すと、紅は残りの指を急いでしゃぶって、奥の襞を、自ら寛げはじめた。俺の入る場所には、紅の両手のひとさし指と中指が、合わせて4本挿し入れられ、うねうねと動いている。

「いっちゃ、だめ。はやくいれて、ボス。俺の中、いっぱい……」

「ゆび、ひとさし指だけにして、おっきく拡げられるか」

「ん、」

 てのひらに掬った白砂は、粒が細かすぎて掬った傍からさらさらとこぼれだす。俺は、紅が指で左右に拡げた入口へ、そのてのひらを擦り付けるようにして、砂を注いだ。続けて、ペニスも半分くらい押し込む。指が2本入ったままで、砂に滑りまで奪われている紅のそこは、かなりきつかった。

「……っあ、あぅ……!」

「お前が指抜いたら、動くぞ」

「うっ……ん、」

 紅の指がきつい入口を抜けると、締め付けはだいぶ緩まった。しかし、異物を入れていることもあって、俺はいつもより慎重に腰を進めた。沈めて、少し戻して、また押し込む。だが、どのように動いても、紅は熱く吸い付いてくるし、中の砂もきゅうきゅうと竿を揉んでくるしで、意図しないちょっとした動きにも、もれなく快感がくっついてくる有様だ。自然、互いの動きも大胆になってくる。あぁ、と、普段なら出ないような高い呻きを、俺は何度ももらした。紅も、カチカチになったペニスを腹につくほど立ち上がらせて、でっかい喘ぎ声をひっきりなしにあげた。

「っうぁ、あぁっ、あ、あ、あー、あー、あー……!」

「……ッンァ、ん……っ、べに……、」

 俺は紅の好きなところに当たるように、角度を加減して壁を擦ったり突いたりしながら、抱えた腰を揺すってやった。

「ひぃっん、やああっ、ああぁあ、ああぁあああ……っ!」

 砂の上に爪痕をいくつもつけ、体をくねらせて、紅は浜木綿の茂みの方に逃げようとする。俺はそれを暫らく放っておいて、抜け出たペニスが砂まじりの短い糸を引いた、そのときに、また深く紅の腰を引き寄せた。

「い……っ、あ、ボスぅ、あぁああん!」

「……あぁ、……べに、…………っ、」

 突きながら、俺は一気に紅を抱え上げて、膝の上に向かい合わせに乗せた。紅は腰を上手にうごめかせ、抜けかけていた俺のペニスを銜え込んで、俺の上に座り直した。そこで、主導が紅に移る。俺は後の体裁のことなんか考えずに、紅のくれるセックスの僕になって、息を荒げた。

「ボス、もぉ、いく?」

「ん、そろそろ……」

「でるとき、俺のくちに、ちょうだい」

「でも多分、ゴムん中まで砂まみれだぜ」

「なめて、きれいにしてから、のむ……、ぁあん! やぁあ!」

 俺に跨がった脚の付け根を、両手で下に押さえつけておいて、俺は紅の前立腺を突き上げた。さらに、その手を前後に動かして紅の腰を揺らし、一番感じる場所をいじめぬく。逃げられない紅は、自分の体を自分で抱いて、激しく身悶えた。

「あぁあああっ、いやぁあ、だめぇ、おれ、いっちゃう、いっちゃう、あぁああんっ……!」

 上体を仰け反らせて、紅は絶頂を迎えた。放出を終えて弛緩した体を抱きとめ、砂浜に横たえる。俺の腹筋の上には、ぶちまけられた紅の欲望の痕が幾筋も垂れて、模様をつくっていた。それはそのままに、紅の顔の横に膝をつく。ゴムを外して、一応、砂を落としてから、俺は自分のペニスを、紅の唇へ触れさせた。

「紅、のむんだろ?」

「ん……、ぅく、……む、」

 紅は舌を大きく出して、今にもいってしまいそうな俺の昂りを丹念に舐め、口の中に溜まった砂を、唾と一緒に吐き出した。何度かそうやって清めてから、雁首だけを銜えて、絞り出すように手を動かす。

「……紅、も……いく、」

「んぅ」

 くぐもった返事と共に、舌が鈴口を撫でる。俺はそのまま、紅の舌めがけて出した。しゃぶりついたままで、紅は喉を鳴らしておいしそうに、俺の精液を飲み干した。

「……ハァー。……いいお味でした」

「お粗末様でした……」

 体から力が抜けるのに任せて、ばたんと砂浜に横になる。紅も、俺の隣に寄り添って寝そべった。俺は、その小さな頭に手を伸ばして、短い髪をかき混ぜた。何だか色んなものでべたべたしている。別荘に戻ったら、すぐに洗ってやろう。そう思いながら、撫で続ける。

 紅は満足そうに目を閉じて、くすくす笑った。俺もつられて、少しだけ目を閉じた。波の音と紅の笑い声が、瞼を通した浜辺の光の中に、おおらかにたゆたっていた。


(了)

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